首都圏私立中で人気断トツ、「すべり止めの星」埼玉・栄東の秘密

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精鋭ばかりの難関校とは違う、タフで個性豊かな生徒たち

首都圏トップの7000名を超える受験生が入試に挑んだ埼玉・栄東中学校ギャラリーページへ

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「埼玉」の受験者数が断トツに多かった理由

 かつてない盛り上がりを見せた今年の中学入試も、二次募集、追試などを除けばほぼ最終局面に入った。首都圏の2022年度入試を振り返ると、4都県の中で埼玉の学校が前年比で120%と際立って受験者数を増やしたことが特徴的だった。

 これは県内の受験生の増加というよりは、東京、神奈川、千葉からの受験生が増えたことが大きい。昨年はコロナ感染を恐れて受験校数を絞ったり、交通機関を使って遠方まで受験に行くことを避けたりする受験生が多かったが、今年はそのマイナス分が復活したことが主たる要因だ。

 なぜ埼玉なのかと言えば、埼玉の入試は1月10日からと最も早く始まり、続いて千葉が1月20日から。2月1日よりスタートする東京や神奈川の受験生にとっては、万が一コロナに感染したり、濃厚接触者になったりしても、1月10日ならどうにか快復できるが、20日では間に合わない。そうした理由もあり、お試し、練習の場として埼玉の学校を受験するのである。昨年はその校数を絞ったが、今年は1人が2校も3校も受けたことが埼玉の各校が軒並み応募者を増やしたことにつながった。

 埼玉の学校でもとりわけ受験者数を増やしたのが「栄東中学校(さかえひがしちゅうがっこう)」である。第1回入試を見ると、2021年度は6017名、2022年度は7015名と、なんと1000名も増やし、首都圏では断トツ1位だ。2位は千葉の市川で2463名だったので、いかに飛び抜けた数字であるかが分かるだろう。ちなみに東京の御三家で最も多い開成でも1206名だった。

栄東が入試日に行った驚きのコロナ対策

 昨年、コロナ禍の中学入試で学校側はこれまで経験したことのない感染防止対策を迫られた。“密を避ける”試験の実施という難題を突き付けられたのである。

 とりわけ多くの受験生を集める栄東にとっては深刻な問題だった。最寄り駅はJR宇都宮線「東大宮」という小さな駅。ここに受験生、付き添いの保護者、応援の塾関係者が集中すればとんでもない密状態になる。

 そこで、2020年9月。栄東はどこよりも早く「わが校はこのような形で入試を行います」と発表した。主なものは次の通りだ。

・1教室に入る受験生数をこれまでの半数にする
・机にアクリル板を設置する
・塾による応援を自粛してもらう

 ここまでの対策ならどこも考えられたであろうが、これに加えて、

・第1回の入試を2日間に分け、受験生の選択制にする
・同一日でも集合時間を1時間ずらすことで密を回避
・試験会場を本校以外に同じグループの埼玉栄中学・高校、栄北高校にも設けることで受験生を分散させる
・公共交通機関の利用を避けたい受験生がいることを考慮し、グラウンドを駐車場として開放する

 と、独自の方法を考え出した。学校から寄せられる文書には「来校時には公共交通機関をご利用ください」と記してあるのが当然(クルマの渋滞を引き起こすと近所からのクレームがすごい)だったから、駐車場の開放は特に印象的だった。試験会場、集合時間は選択させると偏る恐れがあるので学校側が指定したのだが、ここにも知恵を絞った後がうかがえた。

電車が不安な受験生のために学校が用意した予約制の駐車場ギャラリーページへ

 発表時期が早かったこともあり、栄東のコロナ対策はその後各校の見本となった。

 そして、2022年度はさらに受験生が増えたことで一層の準備を重ねて迎えた。試験日当日、朝早くに緊張いっぱいで訪れた受験生を迎えたのは、こんなメッセージが書かれた大きな看板だった。

「受験生の皆さんへ 受験してくれてありがとうございます! コロナに負けず頑張ってください 桜咲く4月にお会いしましょう! 教職員一同お待ちしています!」

 学校側も入試業務で手一杯の中、なんとも心温まるやさしいメッセージである。

入試開始前の緊張する受験生たち(埼玉・栄東中学校)ギャラリーページへ

保護者控え室となった体育館では、密を防ぐために間隔を空けて待機

玉石混交の生徒たちが起こす「化学反応」

 そんな栄東とは一体どんな学校なのか。お子さんが中学受験していなければ知らない人も多いだろう。

 TBSの人気クイズ番組に『東大王』がある。この番組で昨年9月1日に「高校生クイズ甲子園」が行われた。1回戦を勝ち抜いたのは、浦和高校、横浜翠嵐高校、北野高校など全国に知られた超優秀な公立高校ばかりだったが、その中で栄東高校が優勝したのである。しかも前年も準優勝している。

「東大王クイズ全国大会」で日本一になった栄東高校ギャラリーページへ

 実は準優勝のとき偶然筆者はこの番組を観ていた。視聴者がこの学校のことを知らないと思ったのか、司会者が「栄東ってどんな学校ですか?」とチーム(3人で組む)のキャプテンである女子生徒に質問した。

 すると、「すべり止めの星です!」と即答した。私立高校がいちばん嫌がる「すべり止め」という言葉を使ったことに驚いた。優勝した昨年のキャプテンも同じ言葉を口にした。実は栄東は毎年コンスタントに2ケタの東大合格者を出し、埼玉の中でトップに踊り出る年があるほど学力レベルも高いのだが・・・。

 後日、栄東の田中淳子校長、井上和明入試広報センター長と話す機会があったときにこの番組のことを尋ねたら、テレビを観るまで出場していることさえ知らなかったという。生徒が勝手に応募したのだという。「すべり止めの星」も、両先生ともむしろ面白がっていた。

 個性的な生徒の話をしていると、次々にいろんな生徒のエピソードが挙がってくる。

「漁船に乗って遠洋航海に出て帰ってこない子がいるのよ」
「中2から勉強を始めて中3で行政書士の資格を取った子もいる」
「この写真、鉄道研究部が各駅の駅メロを録音してきて、編集してピアノやバイオリン、チェロで演奏しているの」
「家でサメを飼育していて、30カ所以上の漁港の漁師と繋がっている子もいる。この子は海洋大学に進学予定なんです」

 学校の懐が深いというのだろうか、生徒が実に個性的で様々な活動をしている。パワフルで、雑草的な生命力があるのだ。

 一般的に難関校は学力的に粒が揃っている。学費も高額なので、家庭環境にも恵まれている生徒がほとんどだ。「少数精鋭」という言葉がふさわしい学校ばかりである。また、開成以外はほとんどが高校募集をしていない完全中高一貫校である。

 一方、栄東はグループ内に小学校があり、高校からも大勢入学する。学納金も東京の私立難関校に比べると格段に安い。いわばいろんな家庭の生徒の混合体である。表現は悪いが、難関校が“ピンキリ”のピンばかりだとすれば、“ピンからキリまで”いるということだ。

 生徒の通学範囲も極めて広いことが特徴だ。北は福島市、南は藤沢市辻堂(神奈川県)。八高線の明覚(埼玉県比企郡ときがわ町)から毎朝4時発の電車で通ってくる女子生徒もいるという。そうした玉石混交の生徒たちの存在が化学反応を起こし、エネルギーが生まれているような感じがする。

栄東が誇る最もタフな人物は女性校長だった!

 前出の田中校長は80歳と高齢である。生徒とは半世紀以上もの年齢差があるが、先のエピソードなどからも分かるように生徒と校長との距離は近い。

 田中校長は大学を卒業後、世界銀行に通訳として勤務し、開発途上国に赴任したこともある経験から、英語力をつければ活躍の場が格段に広がるという思いで生徒に全力でぶつかる。

「あの人」と題した、卒業したばかりの生徒の作文を見ると、そんな田中校長のパワフルさが伝わってくる。

【合唱コン、体育祭、マラソン大会・・・。6年間で多くの行事を経験したが、『いちばん心に残っていることは?』と聴かれたら、答えは一つしかないだろう。そう、答えは、英語の授業である。我が校が誇る最強の人物。彼女が行う恐怖の時間こそが英語の授業である。
 発音の練習・小テスト・罵声・理不尽で成り立つこの授業での消費カロリーは、ポテチ一袋分を軽く上回るだろう。発音の練習では、「声が小さいよ」的な言葉の、彼女のスローガンに対して、日々〇〇君を筆頭に対抗したものだ。
 罵声は、小テストの点が悪かった生徒や質問に答えられない生徒に浴びせる辛辣な言葉。数々の事例があるが、最もメジャーなのは、「勉強しないなら学校やめたら? もったいない」的なことである。小テストに落ち、お決まりの罵声を頂戴したのが昨日のことのように思えます。いや、なんと今朝の夢にも出てきました。
<中略>
 英語の担当が彼女だったから、皆、英語が出来るようになったのだろう。限界という言葉を知らない彼女は、あと何年英語を教えることが出来るだろうか。校長に教わって不幸で、光栄だった】

 教師と教え子との緊張関係、そして敬愛の情──。つい最近も在校生がこんなことを話しかけてきたという。

「先生、ところでいつ死ぬの? ボクが大学出るまで生きていてね」

 パワハラへの懸念から、思い切ったことや本音を語れなくなっている昨今。こんなにも言いたいことを言い合える、熱い師弟関係が存在していることに驚くしかない。校長はこう言っていた。

「子どもたちの心をタフにしたいんです」

 栄東の生徒は校長の願い通り、立派にタフな方向に歩んでいるのではないだろうか。こうしたのびのびとした校風からも栄東の人気がうかがえる。

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